サイトスワップは441、531のように数列でパターンを表現するノーテーションです。しかしなぜこのような簡単な表記で複雑なジャグリングパターンが書き表せてしまうのでしょう。その理由の1つがサイトスワップが表記するジャグリングに一定のルールを設けているからです。上に書いた3つがサイトスワップの大前提です。
メトロノームに合わせてジャグリングをしていることを思えばいいでしょう。ジャグリングが安定すればするほど人間の動作は自然と等間隔のリズムになっていく傾向があるようで、それを思えばきわめて自然な仮定です。(むしろ不均一なリズムでジャグリングする事の方がよほど難しい事です。)ジャグリングをするときにボールを投げるリズムをビート(拍)という単位で区切ることにします。これについてはノーテーションの基礎知識に詳しく説明しています。
この規則がサイトスワップの大きな特徴です。この仮定によってサイトスワップは煩雑な表現から開放されたと言ってもいいでしょう。1の前提とあわせれば結局右、左、右、左と等間隔でボールを投げることになります。実際たいていのジャグリングパターンはこのスタイルでジャグリングされるのでこの規則はそれほど的外れなものではありません。しかしジャグリングのパターンの中には当然右手左手が同時にボールを投げるパターンも存在します。例えば有名なボックス(Box)というパターンがそれに当たります。このようなパターンはサイトスワップの守備範囲外になります。※
※実をいえば右手と左手が同時にボールを投げるパターンを表すサイトスワップも存在します。ただここまでくるとサイトスワップの最大の売りである“単純さ”が失われてしまうような気がします。これについてはここではとりあえずおいておきましょう。
サイトスワップの1つ1つの数字は実はボールをどちらの手にどのような高さに投げればいいのかを表しているものなのです。なぜ単なる数字からそんなことが分かるのか、不思議に思うかもしれません。それはこの後ゆっくり説明していきましょう。この数字の意味を理解する事がサイトスワップを理解するの最大の鍵です。
さてジャグリングを単純に表現する過程においては、同時にジャグリングがもつ多くの情報が捨て去られます。そのような余計な飾りを取り除いて最後に残るのがジャグリングの最も本質的な部分と言えるのかもしれません。サイトスワップノーテーションの最も大胆なところはボールの動きだけに注目し、ボールを投げる手や体の動きを一切無視した事です。つまり「ボールをこちらの手にこの高さで投げなければいけない。」ということは教えてくれますが、“ではそのボールをどこからどのように投げたらいいのか”と言う点においては一切ノーコメントです。内側から投げようが、外側から投げようが、あるいは手をクロスさせようが、それはすべてやる人の意思にゆだねられているのです。
「ちょっと待って…」と思うかも知れません。そうです、ミルズメス(Mills'Mess)、バークスバレッジ(Burke'sBarrage)といった有名なパターンも、アンダーレッグ(足の下)やビハインドバック(背中の後ろ)などの印象的なトリックもその多くは手や体の動きが重要な要素を占めているものばかりです。しかし残念ながらこれらをサイトスワップで表現する事は不可能なのです。それは少しがっかりですよね。なぜならたいていの人が真っ先に習得したいと思っているのはまさしくここにあげたようなトリックなのですから。しかしこのように考えてみて下さい。サイトスワップが表現するのはジャグリングのもっと本質的な部分です。あれほど複雑に見えるミルズメスも実は3ボールカスケードと同じ“3”というサイトスワップで表現されます。(この事実はたいていの人に少なからずショックを与えます。)しかしこれはミルズメスの装飾的なムーブに惑わされずに「ボールをどちらの手からどちらの手にどの高さで投げるか」という1点に注目すれば非常に基本的なことをやってるに過ぎないということを私たちに教えてくれるのです。
これは大切な事なのでもう一度強調しておきましょう。
上に書いたこれらの事はサイトスワップの限界と魅力を同時に示してくれるものです。サイトスワップという考え方が私たちに示すのはジャグリングの核をなす部分、もしくはジャグリングを作る素材と言ってもいいでしょう。そこにさまざまな装飾を加え、スパイスを混ぜ、たくさんの魅力的なジャグリングを作り出す事が可能です。サイトスワップによって与えられた無数の素材をいかに組合せ料理し味付けしていくかはジャグリングをする私たちに委ねられているのです。