
2個以上のボールを同時に投げる事をマルティプレックス(Maltiplex)といいます。この節ではマルティプレックスの基本的な方法から、そのバリエーションを解説します。変則的なジャグリングであり、若干この章の範疇を越えるテーマですが、応用性の高い重要なトリックであることは間違いありませんので、できる限り体系的に解説していこうと思います。
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| §8-0 | イントロダクション |
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マルティプレックス(Maltiplex)という言葉は基本的には複数のボールを投げる時にもキャッチする時にも使います。ですから複数のボールを同時に投げる事は正確にはマルティプレックススローと呼ばなければなりません。しかし実際のところマルティプレックスと言えば、わざわざ断らなくてもほとんどが"投げる事"を指します。その理由はマルティプレックスキャッチ、つまり飛んでくる2つ以上のボールを同じ瞬間に1つの手でキャッチする事は非常に難しい事であり、言ってみればボールジャグリングにおけるタブーの1つだからです。この節でもマルティプレックススローのみを取り上げる事にします。
ただしここで2つのことを断っておきましょう。1つにここで言っているのはあくまで"同じ瞬間に"キャッチする事であって、別々のタイミングで飛んできた2つのボールを1つの手でキャッチする事は全く難しい事ではありません。実際にこれからの解説で何度も登場します。2つに、重要な事ですが、タブーだからといって"やってはいけない"ということは絶対にありません。むしろ積極的に挑戦してみましょう。タブーをあえて壊すことが新しいものを作る原動力です。
マルティプレックスは他の多くのトリックと同様、基本パターンの中にいつでも挿入する事ができます。1回のマルティプレックスがパターンの見た目を大きく変えてしまうこともあります。もしくはジャグリングをスタートする手段として使っても効果的です。しかしマルティプレックスのジャグリングへの最大の貢献は3個より多くのボールを簡単にジャグリングする手段を提供してくれたことでしょう。マルティプレックスの技術を使えば4個や5個のボールを使ってジャグリングする事ができます。しかも素晴らしい事にこれは基本パターンをジャグリングするよりもはるかに簡単な事です。但しマルティプレッスを使ったパターンは時に観客に複雑な印象を与え、基本パターンほどの鮮やかさはありません。このことは理解しておきましょう。
マルティプレックスは2個のボールを同時に投げる事が基本です。2個のボールのマルティプレックスの事を特にデュプレックス(Duplex)ということがあります。投げ方には基本となる2つの種類があります。コラムマルティプレックス(Column Maltiplex)とスプリットマルティプレックス(Split Maltiplex)です。簡単に説明すれば同時に投げた2つのボールを再び同じ手でキャッチをするか、別々の手でキャッチをするかの違いです。それにより投げ方が少し変わってきます。マルティプレックスのパターンはほとんどがこの2種類のスローを組み合わせる事で作られているのです。
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3個のボールのマルティプレックスはトリプレックス(Triplex)と呼ばれています。3個のボールを片手に持った状態から、すべてのボールを投げ上げ、カスケードをスタートさせる3ボールスタートとしてよく用いられます。4個以上のマルティプレックスはほとんどお目にかかることはありません。これは4個以上のボールを片手に持てる人がそうたくさんはいないからでしょう。
マルティプレックスでは特別なボールの持ち方をするわけではありません。2個のボール、3個のボールの片手での保持の仕方は3ボールカスケードや5ボールカスケードを始める時と全く同じです。片手で複数のボールを同時に投げようとすると、自然に指先に近いボールほど高く飛んでいく傾向があることを覚えておきましょう(てこの原理です)。
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| §8-1 | コラムマルティプレックス(Column Maltiplex) |
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コラムマルティプレックス(Column Maltiplex)は2つのボールが異なる高さで垂直に一列に並ぶように上がり、2つとも同じ手でキャッチされるという投げ方です。2つのボールが1つの柱の上で上下運動をするのでコラム(Column)と呼ばれています。コラムとは"柱"の意味で詳しくは「第3章§1 コラム」を参照してください。
投げる事は全く難しいものではありません。2つのボールを同時に真上に投げようとすると自然に指先のボールは高く、手の平のボールは低くあがるはずです。2つのボールが同じ1つの柱の上を動くように意識し、高さにできるだけはっきりとした違いを付けましょう。そうした方が取る事が簡単になります。
取る事は投げる事よりも少し難しいですが、やってみればすぐにその感覚をつかめるでしょう。2つのボールが別々のタイミングで落ちてくるので、最初のボールを手の平でキャッチし、次のボールを指先でキャッチします。2つのボールを手の中に積み重ねるのでこの取り方のことを特にスタック(Stack)と呼ぶこともあります。
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まずは2つのボールだけで練習しましょう。右でも左でも同じことができるようにします。それができたら右で投げたボールを左でキャッチしたり、その逆も試して見ましょう。2つのボールを放物線を描くように投げる時は、投げた2つのボールは常に垂直な柱の上にあり、その柱が左右に動いている様子を想像しましょう。つまり理想的には2つのボールが横に動く時もその上下の並びは保たれているということです。
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2つのボールは同じ手で投げられ、同じ手でキャッチされるのであたかも"2つのボールを1つのボールのように扱っている"事になります。これはコラムマルティプレックスの基本的なアイデアです。つまりジャグリングパターンの中の1つのボールに注目し、その1つのボールを2つのボールに置き換えてコラムマルティプレックスを適用することで、同じパターンをボールの数を増やしてジャグリングできるということです。その例を以下で見ていきましょう。
コラムマルティプレックスを使えばカスケードを4つから6つのボールでジャグリングする事も可能になります。
まずはカスケードの中の1つのボールを2つのボールに置き換えてみましょう。この2つのボールは常にセットで行動します。つまり一方の手から同時に投げられ、反対の手でキャッチされます(キャッチするタイミングは同時ではありません)。マルティプレックスで投げるボールを少し高めに投げるとやりやすいでしょう。慣れれば徐々に低くしていく事ができます。
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同様にマルティプレックスで投げられるボールのセットを増やしていきましょう。5個では2セットのボールをマルティプレックスで左右に投げます。6個はすべてのボールをマルティプレックスで投げます。ボールが増えても基本的にやっていることは3ボールカスケードだということに注意しましょう。

もしあなたが4個や5個のボールの基本パターンをジャグリングする事ができるのなら、このマルティプレックスのパターンから基本パターンに移行してみましょう。また逆に基本パターンからボールを回収してマルティプレックスパターンに移行してみましょう。
上と同じ理屈で2イン1ハンドのパターンを3つのボールでジャグリングする事もできます。2イン1ハンドでジャグリングされている1つのボールを2つボールに置き換えるのです。
そのほかにもさまざまな応用が可能です。その詳細は4ボールや5ボールのパターンとして後の章で解説していきます。この節で重要なことは単純なパターンからボールを増やしていくアイデアを汲み取ってもらうことです。そのアイデアさえあればこれから習得するあらゆる3ボールジャグリングのパターンを4つ以上のボールに適用する事が可能になるはずです。
| §8-2 | スプリットマルティプレックス(Split Maltiplex) |
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スプリットマルティプレックス(Split Maltiplex)とは2つのボールが左右に分離し、別々の手に落ちていくように投げる方法です。スプリットとは分離するという意味です。こちらも非常に応用の広い投げ方です。
手に持った2つのボールに均等な力を加えながら投げ、上方で2つに分離させます。これは全く難しいものではありません。むしろ2つのボールを片手から投げようとすれば、ボールは自然にこのような軌道を描くものです。2つのボールの高さは大体同じになるようにしましょう(ただ現実問題それほど厳密に同じ高さである必要はありません)。少なくとも2つのボールは体の面と平行な面を動くようにしなければなりません。一方のボールが体から離れていったり、近づきすぎたりしてはいけません。分離したボールを両手で(ほぼ)同時にキャッチされます。
(補足)細かいことを言うとボールを2つに分離させる投げ方は実は2通り考えられます。2つのボールは一方はセルフ、一方はクロスで投げる事になるのですが、指側のボールをセルフで投げるか、ひら側のボールをセルフで投げるかで投げ方が違ってくるのです。どちらを使うかは特に重要な問題ではありません。自分の好みに従ってください。
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スプリットマルティプレックスを使ってカスケードを始める方法を練習しましょう。
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上の方法と通常のカスケードのスタートとの違いを比較してみてください。結局右手からマルティプレックスを投げる事で右手に余分なセルフスローが加わっただけのことなのです。簡単な変化ですがこれだけで見た目はかなり変わってしまいます。
このスタートをパターンの途中に挿入する事もできます。つまり3ボールカスケードから右手のボールを投げるのをやめ、右手に2つのボールを回収します。ここでパターンは一時的にストップします。すかさず右手から上と同様にスプリットマルティプレックスを投げ、パターンを再開するのです。
これだけでもいいのですが、この方法だと途中でパターンが止まってしまうので、文字通り少し拍子抜けしたものになります。しかしここにちょっとした魔法のスパイスを添えるだけでこの簡単なトリックが格好よく姿を変えてしまうのです。そのスパイスとは左手でほんの1投だけ"無駄な"スローをすることです。それが以下のトリックです。
ホップストップとは2つのボールを片手に集めてパターンを止める瞬間に、反対側の手のボールを軽く跳ね上げるというトリックです。
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これら全てはカスケードのリズムの中で行なわれる動作です。
ポイントは左手から真上に投げられるセルフスローにあります。このスローは実は本来全く投げる必要が無いものなのです。ジャグリングにおけるスローとは大抵の場合飛んでくるボールをキャッチするために"必要に迫られて"行なうものです。しかし上で左手から投げたスローはいわばパターンの"装飾のため"に投げられたものなのです。
たったこれだけの装飾がパターンを見た目を見違えるほど変えてしまいます。このスローのおかげでパターンに生じる不自然な間が消えてしまい、観客はまだカスケードが続いているような錯覚を受けます。次の瞬間、一方の手から2つのボールが突然魔法のように飛び出し、見ている人に衝撃を与えるのです。うそだと思うのなら左手のボールを投げない場合と投げる場合の印象を比較して見て下さい。
さてさらにこのトリックを発展させることもできます。この次の項目を参照してください。

スプリットマルティプレックスはボディースローと大変相性のいいトリックです。試しにスプリットマルティプレックスのスタートを
で行なってみましょう。
ここに1つ簡単で非常に効果的なホップストップのバリエーションを紹介しましょう。ホップストップのときのマルティプレックスにアンダーザハンドを適用するのです。
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右手にボールを集め、左手はボールを軽く真上に上げます。この瞬間、右手は左手の下に動き始めます。
左手がボールを受け取ると同時に、右手の2つのボールを左手の下からアンダーザハンドの要領でスプリットマルティプレックスで投げます。これは右手の動きが左手によって突然止められ、右手のボールが手を飛び出したというイメージで行なうといいでしょう。あとは手の交差をスムーズにほどき、カスケードを復元します。
ジャグリングをよく知っている人に是非このトリックを見せてあげてください。突然目の色を変えて「今のどうやったの?もう一度やってみせてよ!」と言うことは間違いありません。
スプリットマルティプレックスの技術を使って、4つのボールでカスケードをする事ができます。4つのボールの場合、一方の手が常にマルティプレックススローを行い、反対の手は通常のカスケードと同じです。言ってみれば3ボールカスケードに余分なセルフスローを加えているだけの話なのです。
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これで最初の状態に戻ります。あとはこれを続けるだけの事です。

これを発展させて5つのボールで同じことができないかと考えるのは自然な発想です。この場合両手が常にマルティプレックスを投げる左右対称的な美しいパターンができます。これは5ボールスプリット(Five Ball Split)と呼ばれる5ボールの有名なパターンです。これも言ってみれば3ボールカスケードに余分な左右のセルフスローを加えているに過ぎないのです。詳しくは5ボールの章で解説することにしましょう。
同様な発展からスプリットマルティプレックスを使って複数のボールを簡単にジャグリングする手段が提供されます。繰り返すように大切なのはこのアイデアを汲み取る事です。それさえ分かれば6ボールや7ボールのパターンもあえて説明しなくても容易に実現することができるはずです(いや、少なくとも想像だけはできますよね)。
| §8-3 | 3個ボールのマルティプレックス(Triplex) |
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3個のボールのマルティプレックスの使い道はそのほとんどがパターンをスタートさせることです。ここでは簡単にいくつかの投げ方を紹介しておきましょう。3ボールスタートの節でさらに詳しく研究していきす。
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上下に高、中、低と3つのボールが一列に並ぶように投げます。さらにすごい事にこのボールは全て同じ手でキャッチされます。ほとんどお目にかからないマルティプレックスですが不可能ではありません。
3ボールを左右に投げ分ける方法ですが、3つのボールの場合全てを同じ高さで投げるわけにはいきません。なぜなら同時に落ちてくる3つのボールをキャッチする事は少なくとも人類には不可能だからです。その為ボールの高さも投げ分けなければなりません。投げ分けるときは指先に近いボールほど(てこの原理で)高く投げるという原則を思い出してください。そうすればおのずとどのボールをどの高さで投げるべきかが理解できるでしょう。
3ボールスタートでは一般的な投げ方です。下の2つのボールをまずキャッチし、落ちてくるボールを受け取ってカスケードをスタートします。
この方法は7つのボールを左右連続の3ボールマルティプレックスで行なうという信じられないパターンの元となるものです(これも詳しくは5ボールの章で解説します)。
