
カスケードを卒業していよいよ技に挑戦。その上での心構え、知っておくべき知識をまとめておきました。
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| §0-0 | トリックに挑戦−航海の前の心構え |
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さてカスケードはだいぶ安定してきたでしょうか。自分のカスケードが徐々に安定し、できる回数が少しずつ増えていく過程はとても楽しいものです。しかしある程度できるようになるとそれだけでは物足りなくなるのが人間の性というもの。ジャグリングがある程度できるようになったら更にむずかしい技に挑戦してみたくなるものです。
3つのボールを使って行なう事ができる技は無限にあります。これからそんな3ボールジャグリングの海に漕ぎ出すわけですが、そのあまりの広大さに多くの人は圧倒され途方に暮れてしまうものです。いったいどれが簡単な技で、どれが難しい技なのかまるっきり分かりません。カスケードを卒業した初級者(こう呼ばせてもらいましょう。カスケードができるならもう初心者の肩書きは捨て去って下さい。)が真っ先に持つのは「カスケードはできるようになったんだけど次はいったい何を練習すればいいの?」または「どのように練習していけばいいの?」と言う疑問です。
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| 図1 |
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このような疑問を持っているのは初級者だけではありません。中級者、上級者となっても常にこの疑問に直面し、次の進路を模索していかなければなりません。広い海で迷ってしまわないために、そしてできる限り無理なく効率的に技の幅を広げ、新しい技を開拓していくために、重要な指針をこの教本では明示しておこうと思います。これは最初の疑問に対する1つの答えです。
これはジャグリング上達のための大切な方法論を示唆するものだと思います。なぜなら無限のように見えるジャグリングのバリエーションも実は基本的なトリックやパターンを、組み合わせたり、発展させることによって作られているからです。。見た目からはとうていそうとは思えないかもしれません。しかしほんの少し投げ方やリズムを変えてみることで同じ技とは思えないようなユニークなパターンができてしまうところがジャグリングのおもしろいところなのです。
| §0-1 | トリックとパターン |
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トリック(Trick)とパターン(Pattern)という2つの用語はこの教本ではしばしば登場するものです。2つともジャグリングの“技”の事を指していますが、この教本の中では少し意味を区別して使っていきたいと思っています。
(補足)日本語でトリックというと手品のように種や仕掛けがあるものを思い浮かべてしまう人が多いですが、ジャグリングで言うトリック(Trick)にはもちろん種も仕掛けもありません。Trickという単語には”妙技、ごまかし、幻想”などという意味があります。
パターン(Pattern)は一定の周期で繰り返されるジャグリングの"型"のことです。3ボールカスケードはもちろんパターンですし、2イン1ハンド、シャワーというのもパターンです。それに対してトリック(Trick)というのは基本的なパターンの中に単発的に挿入される"動作"の事を指します。カスケードからボールを足の下に通したり、背中の後ろを投げたりする"動作"はトリックです。
(補足)パターンの名称にはミルズメス(Mills’Mess)、ボックス(Box)、ペンギン(Penguin)のように独特の名称がつけられているものが少なくありません。それに対してトリックはオーバーザトップ(Over the Top),アンダーザレッグ(Under the Leg)と言うように直接的に動作をあらわしている名称が多いようです。
トリックはジャグリングのパターンを作り出す材料のようなものだと考える事ができるでしょう。トリックを組み合わせたり、いろいろなタイミングで挿入する事によって新しいジャグリングのパターンが生み出されます。音楽で例えるならトリックは音符であり、パターンはメロディーです。
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| 図2 |
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| §0-2 | この章の目的 |
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この章ではジャグリングの重要なトリックを取り上げ、それを丁寧に解説していきたいと思います。そのどれもが3ボールカスケードができるようになった初級者が最初に取り組むのにふさわしいものだと考えます。
しかしこの章の目的はそれだけにとどまりません。そのトリックをどのように発展させていく事で新しい技が生まれてくるのか、ということを考察していくのがこの章のもう1つの重要なテーマです。それはこれから多くのジャグリングの技を練習、開発していく上で自分が進むべき道を示すコンパスとなるものだと信じています。
この教本を通して貫いていこうと思う姿勢は、単なる技の解説にとどまるのではなく、そのパターンがどのようなトリックを組み合わせて、どのようなアイディアから生まれてきたものなのかも含めて分析していくことです。なぜならジャグリングを練習する究極の目標は先人が考え出したの偉大なトリックを習得することだけでなく、その発想を汲み取り、何か新しいものを作り出していくことにこそあると僕は考えるからです。全てのジャグリングトリックを解説することは不可能です。しかしそれを作り出すアイディアは本当に単純なところにあるものなのです。
| §0-3 | トリックからパターンを作る公式 |
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1つのトリックを習得したらそのトリックを周期的に繰り返す事でパターンを作る事ができます。これはこの章で繰り返し登場するもので、ジャグリングのパターンを作る最も基本的なアイデアだといえるでしょう。以下の3つはトリックをパターンに発展させる重要な公式です。
この公式に従うだけで簡単に面白いパターンが出来上がります。
当然周期が短くなればなるほど一般的に難易度は高くなります。最初は長めの周期を作って練習し、次第にその周期を短くしていきましょう。このように段階を追って徐々に難しいパターンを組み立てていくのは、効率のいい練習にもなります。
また奇数回の周期でトリックを適用すると、左右均等にトリックを行うバランスの良いパターンが出来上がります。
ほんの少しカスケードを変形する事でいかに見た目が変わるものか、これらの実例を通して実感されることでしょう。
| §0-4 | トリック練習の心得 |
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どんなトリックも慣れてしまえば全く難しいものではないのですが、最初に試みるとあまりにカスケードとは違った感覚がして、なかなかうまくいかないものです。あんなに安定していたカスケードがほんの少し投げ方を変えただけで無残に壊れてしまうのでショックを受けるかもしれませんね。しかしトリックを学ぶと言う事はそういうことです。ここでは実際のトリックの練習をしていく前に、覚えておくべき事柄を一般論としていくつかまとめておきます。これは新しいトリックを練習するとき常に持っておくべき心構えです。
初級者の方にとってはここに書かれている事はあまりピンとこない事かもしれません。ですから簡単に目を通したら、実際の解説を読み進めていきましょう。しかしある程度トリックを練習し始めた段階で是非じっくり目を通してみて下さい。ここには上達への多くのヒントが書かれています。
3ボールカスケードの時にも強調しましたが、練習のときはどんな技も常に左右均等に練習する癖をつけましょう。これはジャグリングの上達において非常に重要なポイントだと思います。多くのトリックは左右非対称なものです。多くの人はそのようなトリックを自分の利き腕を主体に練習するのが普通です。しかしいったん右でその技を習得したら必ず左でも同じことができるようにしておきましょう。その理由は左右均等にジャグリングできる事が技のバランスを良くすると同時に、新しい技の可能性を大きく広げてくれるものだからです。
コラム/ジャグラーの利き腕
新しいトリックを習得する過程では体は2つのことを覚えていきます。1つはボールの投げ方(取り方)、もう1つはボールを投げる(取る)タイミング(またはリズム)です。この2つがうまくいって始めて1つのトリックは成功します。最初のうちトリックが難しく感じてしまうのはこの2つのことを同時に考えることができないからなのです。たいていの人間にとって、2つのことを同時に考えながら物事を行うことは不可能です。ですからこの2つを別々に意識しながら段階を踏んで練習していくのが望ましいのです。
あらゆるトリックにいえることですが、まず最初にそのトリックの根幹をなすムーブ(ボールの投げ方、ボールの取り方…)を体に覚えこませる練習をしなければなりません。そのためにたいてい最初は1つのボールだけを使って練習します。これはボールや体のムーブだけに意識を集中するためです。ここでの目標はできる限り力を抜いて、何も考えなくてもそのムーブができるようになることです。
これがトリックの習得においてもっとも重要な段階だと僕は思います。トリックを習得すると言う事はそのトリックが持つリズムを習得することといっても過言ではないでしょう。リズムとはボールを投げたり取ったりするリズムはもちろんの事、どの瞬間にどのボールに意識を持っていくべきかという、いわゆる“意識を移行するリズム”が重要になってきます。
どんなに投げ方が正しくても間違ったタイミングで投げられたボールは決してつかむ事はできません。またどんなに正しく投げられてボールも取るべきときにそのボールに意識が移行していなければやはり落としてしまう事になるでしょう。面白いことにトリックがうまくいかないとき、その最大の原因はトリックを行う瞬間にあるのではなく、トリックを行った後に生じるリズムの乱れにあります。これはこれから実際の例を見ていく上で実感する事でしょう。ボールを取る事を忘れて、ボールを投げる事だけに専念するのはリズムをつかむ非常に良い練習になります。
今後の多くのトリックの練習の過程でこの2つのステップを常に意識しておきましょう。どうしてもうまくいかなくなったとき自分がどちらのステップでつまずいているのか常に問いかけてみましょう。失敗の原因を正しく把握する事が効率的な練習につながります。
1つのトリックがうまくできるようになったら、それを何度も繰り返してより安定してトリックができるようにしましょう。全てのジャグリングにあてはまることですが、本当に安定したトリックというのは行うのに全く余分な力は必要ありません。できる限りリラックスして無理や無駄がないムーブを心がけましょう。それとこれは大変重要な事ですが1つのトリックをマスターしたら必ず同じトリックを左右で同じようにできるようにしましょう。右で習得したトリックは必ず左でもできるようにならなければいけません。2倍の労力が必要なような気がしますが、それは結果的に技の安定度を高め、技の幅を広げる上達への近道なのです。
第0章でも説明しましたが、あるジャグリングの技をマスターするための練習方法として2つのアプローチがあります。ボトムアップとトップダウンです。
ボトムアップとは少ない個数(1個、2個)のボールで基本的なムーブを練習し、それを組み立てて全体のパターンを作っていく方法です。難しい事を成し遂げるために、最初は簡単なところからはじめて、段階を追って‘少しずつ難しくしていく’というのはあらゆる物事の一般的なアプローチです。これはこの解説で述べたStep1(ボールの投げ方をつかむ) にはこのトレーニングが有効です。
一方トップダウンというのはとにかく完成したパターンを練習してみて、何か問題が起こったら必要に応じて個々のムーブを練習していくという練習方法です。多少不正確なところがあってもとにかくやってみて、技の概要、全体のリズムを先につかんでしまおうという目的があります。Step2(リズムをつかむ) にはこちらの方法が有効なトレーニングとなります。
この2つの練習方法はどちらも大切なアプローチで、対立するものではなくむしろお互いの欠点を補い合うものです。ジャグリングを習得するのに個々のムーブを正確にできるようになることは大切です。しかしそれだけではジャグリングパターンが持つ全体のリズムをつかむ事はできません。全体を練習する事が逆に個々のムーブの安定につながることにもなります。
トリックを習得するには定められた手順というのはありません。段階を追って練習しなければいけないなどと堅苦しく考えず、ある程度投げ方をマスターしたら、とりあえず全体をやってみる。どうしてもうまくいかないときはその問題点を見つけるためにもう一度基本練習に戻ってみる。という具合に行ったり来たりしながら進んでいけばいいのです。全く上達しないように思えても、確実に前に進んでいるものです。そしてあるとき全てがうまくいって、あれほど難しかった技がびっくりするほど簡単にできるようになる瞬間が訪れます。それは本当に嬉しいものです。(多くのトリックを習得した今でも新しい事ができるようになった瞬間の喜びは格別のものがあります。オーバーな表現ですが誰もがこの瞬間が味わいたくてジャグリングしているのかもしれませんね。)
